徹底的に準備して、惜しげもなく捨てる
イベント司会を主な仕事としていた頃、司会はもちろんテレビやラジオなど多方面で活躍している先輩がこんなことを言っていました。
「原稿書きや取材など、100の準備をしても90は捨てる」
司会の仕事において、完全な原稿が用意されていることはまずありません。司会者が自分で書き起こすか、原稿が用意されていたとしても、よりわかりやすく伝わりやすい言い回しになるよう手を加え、さらに現場の状況に応じてアドリブで進行していきます。
そのような原稿書きや、イベントに関連する情報の下調べなどの取材を「100」したとしても、そのうち「90」は使わないという話です。
だからといって最初から10の準備で十分だというものではなく、100の準備をしたからこそ、その中から必要な10を本番で使えるのです。
ライブで話す仕事はすべて同じで、わたしも先輩に倣い、イベント司会、ラジオパーソナリティー、Webセミナーのキャスターなど、その場の流れや雰囲気を汲み、時には質疑応答をしながら喋る仕事では、常に100の準備を心がけ、かといって準備したことに固執せず必要なければ捨てることをしてきました。
これはもちろん仕事の質を高めることになりますが、実はそれ以上に自分のためといえます。
司会者として案内すべきことをうまく言葉にできなかったとき。
ラジオでゲストさんの質問にうまく答えられなかったとき。
たいてい、その状況は「事前に予想できたこと」なのです。
予想できたはずなのに、準備を怠ったために対処できなかった。お客さまやゲストの方に迷惑とはいわないまでも満足な対応ができなかった。結果、仕事の質を落とした。
これはとても後悔が残ります。
プレゼンテーションや営業トークでも同じです。話す本番を迎える前に、想定される質問や状況をすべて洗い出し、どう対処するかを定めておきます。聞き手やお客さまの満足度が上がり、仕事の質を高めるうえに、自分に自信がつき、次はもっと質の高い仕事をすることができます。
ただし、必ず「惜しげもなく捨てる」をセットで実行してください。準備したことにこだわって、100の準備すべてを出し切ろうとしては絶対にいけません。すべて出し切りたい、というのは自分の都合です。相手の必要な情報だけを出しましょう。せっかく準備したんだからと余計な情報を出してはいけません。かえって受け手の理解度や満足度を下げることになります。
徹底的に準備して、惜しげもなく捨てる。
単純なことですが、意識しないと意外とできないものです。
準備に手を抜くのは簡単ですが、予想できたはずの事態に対処できなかった後悔の念を消すのは簡単ではありません。そして徹底的に準備をするのはそれほど難しくありませんが、惜しげもなく捨てるのには覚悟が必要です。自己満足のために伝えているんじゃない、伝えるために伝えているんだ、という覚悟です。
徹底的な準備と、惜しげもなく捨てること、この2つは伝えるために絶対に必要なことです。