声と言葉とワーキングマザー

司会の仕事、演劇、ITベンチャー勤務で学んだこと、WM生活を発信します。

不安なときこそ堂々とする

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19歳でアナウンススクールに通い始めたころ、わたしはパソコン講師のアルバイトで生計をたてていました。当時、会社でExcelやWordを使うから勉強しなきゃいけないけど、自宅にはパソコンがないから教室に通って習わないといけないという方がけっこういました。就職や転職でもワープロ検定3級でいいから持っていれば有利だった時代です(地方なのでなおさらコンピューターの普及が遅かったのかもしれません)。

教えていたのはWordとExcelです。自分でいうのもなんですがわたしはけっこういい先生だったと思います。生徒さんに「へ~」「なるほど」「わかった!」と言っていただけるのがうれしくて、12時間の通し勤務なんてこともありましたが、がんばり続けられました。

 

さて、もう16年も前のことなので白状するのですが、実は講師としてデビューしたとき、わたしはOfficeをというかWindowsを使い始めて1週間しか経っていませんでした。そんなことはおくびにも出さず、まあ10代でしたので新人講師だということは生徒さんにもわかっていたと思いますが、それでもあくまで講師という立場で教室に立っていました。

わたしが実家で小学生のときからさわっていたコンピューターは、Macintoshだったのです。当時のMacは今以上にWindowsと趣が違い、もちろんOfficeはありませんので、WordもExcelも、パソコン講師になると決まった後に生まれて初めてさわりました。それを1週間後には生徒さんに教えていたのです。

当然雇い主はわたしがWindowsを使ったことがないと知っていましたから、よく講師として採用したものだと思います。が、結果的にわたしは一度も生徒さんから知識量や教え方についてクレームを頂戴することもなく、司会の仕事が軌道にのるまでの1年間、講師をさせていただくことができました。

 

バイト講師は教えていい範囲が決められていてそれを超える進度の生徒さんは受け持っていませんでしたし、教室には常に正社員の講師がいて助けてくれたのですが、それでも生徒さんから知らない機能について質問され、対応しなくてはいけないシーンは何度もありました。

他の講師に助けを求めようにも別の生徒さんの対応中。質問してくれた生徒さんに「お待ちください」と言うこともできるけど、いつ他の講師に引き継げるかもわからない。

そんなときにどうしていたかというと、言葉は悪いのですが、勘で説明していました…。

たとえばWordで「英文のスペルチェックをしたいときはどうするんですか?」と質問され、わたしはスペルチェック機能を知らなかったとします。他の講師に聞いてくださいとは言えません。

そこで19歳のわたしは、「英文のスペルチェック機能ですね」とゆっくり繰り返しながら、Wordの画面をじっくり見ます。

スペルチェック機能は間違いなくあるだろう。おそらくメニューから選べるだろう。(当時のWordがどんなメニュー構成だったか覚えていないので今のWordでいうと)メニューに並んでいるのは、ファイル、ホーム、挿入、…あっ、校閲。ここにありそう!「メニューの、校閲をクリックしてください。」あったあった、スペルチェックのボタン。「スペルチェックがありましたね。これをクリックしてください。」「先生、ありがとうございます!」

たまに間違えることもありましたが、素直に「すみません間違えました」と言って、もう一度勘で指示して操作してもらうと、正しい答えにたどり着けないことはありませんでした。WordやExcelの初歩的な部分しか教えていなかったこともあり、こんな感じで乗り切っていたのです。

 

ただ、今振り返ると、Macとはいえコンピューターを使うこと自体には慣れていたもののこんなやり方が可能だったのは、わたしがアナウンススクールで訓練を受けている途中であり、パソコン講師も話すプロであると意識していたことも影響していたと思います。

具体的には、常にたったひとつのことを守っていました。

 

それは、どんなに自分が不安でも、生徒さんには不安を与えないこと。

 

自分が知らないことを質問されたとしても、講師としてのスタンスをくずさず堂々と応じる。もちろん嘘や適当なことを教えたりはしませんでした。でも、実はちょっと不安がある内容でも堂々とお伝えする。万が一間違っていたら誠意を持って謝る。これだけは、実際はどんなに心臓バクバクで冷や汗ものだったとしても、守っていました。

きっと生徒さんにはわたしがとても落ち着いて対応しているように見えていたことでしょう。だから、あの先生は頼りないとか、何も知らないとか、クレームを受けることなく講師を続けられたのだと思います。


まあ、結果的に生徒さんには満足していただいていたとはいえ、ハッタリでしのいでいたと言われても返す言葉はなく、大変申し訳ないことです。16年経つのでどうか時効ということにさせてください…。

記事にしたのは、白状してしまいたかった気持ちもありますが、この経験が今もわたしの支えとなっているからです。

誰かに何かを伝え信用を得るためには、相手に不安を与えないことがとても大事であると、実践で学ばせてもらいました。どんなに緊張していても、失敗するかもしれない恐怖を感じていても、それはあくまで自分の問題です。自分に打ち勝ち、自分の内面でなく相手のほうを向いたうえで発した言葉でなくては、相手に届きません。

“「話すのが苦手」の原因は?” で書いた、“「話すのが苦手」の原因は経験不足である” という話にも通じます。

 

とにかく、堂々とすること。

自信のなさを表に出すのは自分のための逃げでしかなく、相手にとってはなんのメリットもありません。

堂々とする、それだけで、伝わる力は強くなるのです。